債務整理をせざるを得ない状況におかれたときに、債務の状況によっては自己破産や個人再生のような「法的整理」を検討する必要がある場面が少なからず存在します。そうしたときにどの方法を選択するかという問題が生じてきます。
実際に方針選択の場面においてどのようなことを考えて選択するかについて本稿ではご説明します。
目次
1.基本は返済の履行可能性の有無で判断する
基本的には任意整理で返済可能であれば任意整理、個人再生であれば返済可能であれば個人再生、どちらも困難な場合は自己破産いうのが基本形です。
返せるあてがないのに任意整理をする、返せるのに自己破産をするというのは方針の選択を誤っています。
近時は特に安易な任意整理を推奨する事務所も一部であることから、問題になるケースもあります。他方、法的整理したほうが良さそうな事案においても個々の事情により任意整理を選択せざるを得ない場面というものもあります。
基本形は先程述べた通りですが、基本形を念頭に置きつつそれぞれの方針について概観して実際の方針決定の思考を説明していきます。
2.任意整理に支障をきたすケース
現時点では返済可能そうに見えるものの、実際任意整理が困難なケースは次の通りです。
⑴ 債権者が通常認められうる和解に応諾しない
最近は必ずしも適切とは言えない相場ではありますが、任意整理の場合は残債務(+和解時までの利息損害金)を60分割に近い回数で分割出来ることが多いです。しかし、一部の業者は上記の相場より大幅に厳しい条件を突き付けてきたり、任意整理に応じない業者もあります。この場合、総債務と収入を比較すれば返済可能そうに見えますが、任意の和解に応じない以上は法的整理で裁判所を介して債務整理する必要があります。「任意」である以上債権者に強制することができないためです。
まったく任意整理に応じない業者は一部の中小消費者金融(いわゆる「街金」)や債権回収会社、既に新規貸し付けは停止して残債権の回収のみに特化している業者が多い印象です。最近は大手業者でも借り方(利用方法)が悪質と判断される場合には厳しく対応されるケースが多いです。
⑵ 今後収入が減る、支出が増える事情がある場合
退職予定がある、給与が減る予定がある、医療費が増える事情がある等で完済までに至れる見込みがない場合は任意整理を進めることが必ずしも適切であるとは言い切れません。最も、現時点で想定できなくても将来これらの事情が発生する可能性は恐らくどなたでもあると思うので、どこまで考えるか、どこで線引きするかはしっかり検討する必要があります。
3.法的整理(自己破産・個人再生)に支障をきたすケース
⑴ 同居者に秘匿の場合
法的整理においては、裁判所に家計に関する書類(家計表・給与明細・源泉徴収票等)、財産に関する書類(通帳、保険証券等)を提出する必要があります。これらは基本的に同居者(血縁関係、親族関係問わず)の分も要します。家庭や書類によっては同居者に黙って持ち出すことは理論上可能ですが、通帳や給与明細については一般的に同意なく持ち出すことは難しいと思われます。
現実的に同居者に判明せずに申立てを完結することは困難です。同居者に絶対に秘匿しなければならない場合は多少厳しくても回避して任意整理で処理するケースがあります。
⑵ 整理対象にしづらい債務がある
法的整理は任意整理と異なり、債務者の全ての債務を手続きに加える必要があります。特定の債務だけ除外するというのはできません。
法的整理を躊躇するような債務には以下のような債務があります。
- 個人(親族、友人、同僚等)からの債務
- 勤務先からの債務
- 保証人がついている債務
- 自動車等の物品購入の債務で所有権留保がついている債務
- 一部の街金等、すぐ訴訟提起してくる業者の債務
これらの債務がある場合にも法的整理を回避して無理してでも任意整理をせざるを得ない場面があり得ます。
⑶ 財産を有しており処分が難しいケース
自己破産の場合は、制度上「財産を処分し、債権者に債権の割合に応じて配当する」ものです。従って、財産は処分されます。
個人再生の場合は、財産は強制的には処分されませんが清算価値には計上され、再生債権額(返済すべき額)は増える可能性があります。清算価値が上がることで再生計画の履行可能性が下がることになる場合があります。
処分が難しい財産の代表的なものは不動産です。自身や親族が居住利用している場合や親族と共有持ち分で保有している場合は換価することが現実的に困難であり、法的整理を妨げる要因となり得ます。
4.自己破産特有の支障をきたすケース
⑴ 免責不許可事由がある場合
免責不許可事由とは、自己破産申立てしても免責許可されないとする事由です。いくつか例を挙げます。
- 債務を作ったきっかけが浪費
- クレジットカード、後払いサービスでの換金行為
- 偏頗弁済
これらの行為がある場合、免責許可されない可能性があります。
免責不許可事由があっても多くの場合は裁量免責によって免責されることが多いですが、事案によっては管財事件に回る可能性がある等リスクもありますので、比較検討して可能であれば任意整理や個人再生を選択するケースがあります。
⑵ 自己破産が影響する職業に就いている
一例ですが以下の職業は自己破産が職業の従事に影響を及ぼします。
- 司法書士、弁護士、行政書士等の士業
- 宅建取引士
- 保険外交員
- 警備員
- 会社役員
これらの仕事に就いている人は自己破産によって一時的であっても職業制限が生じる(会社役員は職業制限はないが、委任関係が解除されることにより退任)ことになります。職業制限を回避するために自己破産を回避することはあり得ることです。
5.方針決定のあり方について
原則論に立ち返れば冒頭に述べた基本形に当てはめて、どの方法が良いかを考えることが一番良いのは間違いありません。ただ、実際には個々の置かれた事情も多重債務に陥ったきっかけも様々ですので、画一的に決められるものではありません。
また、いったん決めた方針でも申立てや和解に至るまでの間に事情が変わることもあり得ます。
弊所でお受けした案件についてはご依頼者様の状況をよく検討したうえで受任⇨処理を進めていきます。
方針決定でお悩みの方のご相談も積極的にお受けしていますので、是非一度ご相談ください。