最近、一部の司法書士・弁護士による債務整理業務の不適切と思われる受任や誇大広告が社会問題となりつつあります。
実際に事案は異なりますが、弁護士の広告で「国際ロマンス詐欺」についての広告が「過度な期待を抱かせる」内容で不適切であるとし、懲戒に発展したケースもありました。
債務整理の広告においても、ここ数年「国が認めた減額制度」や「国が認めた借金救済制度」などあたかも国が主導して新たな債務整理に対する救済制度を設けたかのような広告が目立つようになりました。
また、「減額シミュレーター」と称するフォームに債務状況等を入力すると広告元の弁護士・司法書士事務所から勧誘の電話がかかってくるという話も聞きます。
ほか、「自己破産(個人再生)相当であるにも関わらず、強引に任意整理を勧めて結局後で別な事務所で自己破産せざるを得くなるケース」、「報酬体系が不明瞭である」、「送金代行サービスで毎月定額を弁護士・司法書士事務所に送金しているので、どこにいくら毎月返済されているのかわからない」、「弁護士・司法書士が面談をせずに安易に受任する」など問題があるように思える事案もあります。
近時こういった問題について、有志の弁護士・司法書士で団体が結成されたり、大手消費者金融が日弁連(日本弁護士連合会)に意見書を出すなどの事態に発展しています。
今回は、最近の債務整理の広告について掘り下げ、どのように債務整理を依頼すべきか、債務整理を依頼する際の注意点について弊所なりの見解をお示しします。
1. 広告について
⑴ 国が認める減額制度、救済制度といったフレーズについて
当該キャッチフレーズが記載された広告の中身を見ると恐らく「自己破産」、「個人再生」を示しているものと思われます。
確かに自己破産は『破産法』、個人再生は『民事再生法』という法律を設けているので「国が認めた」という文言はあながち嘘であるとは言えません。
ほかにも「特定調停」は『特定債務等の調整の促進のための特定調停に関する法律』、「債務の消滅時効の援用」は『民法(166条、167条)』でそれぞれ定められています。
「任意整理」については債権者と訴外で交渉していくものであるため個別の法律で定められているものではありません。(但し、貸金業法で督促に関する定めはあります。)
しかし、どの方法を取るにしても「単に申請(申立て)をすればよい」というものではなく、依頼者の状況や債務の状況等によってどの方法が適しているかを個別に判断していく必要があります。
また、どの方法で債務を処理するにしてもリスクや手間は当然生じます。特に自己破産・個人再生・特定調停の場合は裁判所が関与する手続きになるため、高度な手続きとなることから安易に決断する性質のものではありません。
こういったライトな広告によって、債務者側の安易な借入れ⇨短期間で債務整理といった問題も生じています。(個別の事情にもよりますが、明らかに契約当初から債務整理すればいいと考えて安易に契約しているケースも最近は散見されます。)
⑵ 減額シミュレーターについて
債務額を入力すると、月にいくら返済すべきかの目安を算出するツールとして広告で出てくるものです。
恐らく債務額や取引年数を入力すればおおよその金額が算出される(あらかじめ所定の計算式をプログラムしておいているものと思われます)ようになっています。
また、シミュレーション結果を本人が確認するためには電話番号やメールアドレスの入力を求められる場合もあるようです。
広告元の弁護士・司法書士の事務所から当該入力された情報に基づいて勧誘が行われることもあるようです。
確かに任意整理をした場合は概ね総債務額を60で割った額(5年分割)が一つの目安にはなりますが、近年は債権者の対応も辛いこともあり、必ずしもその通りになるというものでもありません。
また、個人再生でも基本的には債務の5分の1または100万円のいずれか高い方というのが一つの目安にはなりますが、やはり財産額(清算価値)によってはそれを上回る可能性もあります。
弊所では具体的な試算は面談時に一旦行い、債権調査・財産調査(自己破産・個人再生の場合)を行ったうえで再度正式な見通しを伝えるようにしています。
また、色々な見解はあろうかと思いますが、弊所ではお問い合わせいただいた方に対して最低限度の連絡以外の勧誘、進捗確認等のご連絡(いわゆる「追客行為」)は行っておりません。
これは、債務整理の問題はデリケートな問題であることからそのように対応しています。
2.面談を実施せずに受任することについて
債務整理の受任にあたっては原則として弁護士・司法書士の資格者が本人と面談したうえで受任することが司法書士会・弁護士会の指針で定められています。
※司法書士会では『債務整理事件の処理に関する指針』、弁護士会では『債務整理事件処理の規律を定める規程』によってそれぞれ規定されています。
但し、どちらも例外規定があることから実際には面談せずに電話のみ、電磁的方法(LINE、メール、zoomなど)で受任していると思われる事務所はあるようです。
この場合、「面談できるときには面談する」という体で契約書を作成する事務所もあるようです。例えば、面談の希望日時を書かせる、依頼者が受任者の事務所に行ける日には面談する旨誓約させる等の文言を加えるという方法です。
遠隔地(例:北海道の依頼者と本州の事務所)の場合は現実的に面談する可能性は限りなく低いです。
弊所では必ず簡裁代理の認定を受けた司法書士による面談を行い、そのうえで双方で受任の可否、是非を検討して双方合意に達した場合受任するようにしております。
3.報酬規程の明確さと指針について
⑴ 任意整理の報酬額について
司法書士会では以下の通りに規定されています。
㋐ 任意整理報酬 1社に対し5万円以内
㋑ 減額報酬 1社に対し減額した額の10%以内
㋒ 過払い報酬 1社に対し回収額の20%以内(訴訟した場合は25%)
㋓ 支払い代行手数料 1社に対し「振込手数料(実費)」含め1000円以内
弁護士会でも上記㋑~㋓は同様に定められています。㋐は弁護士の場合着手金と報酬金という区分けをすることが多い関係上司法書士と異なりますが、着手金については「妥当な額」であること、報酬金については「5万円以内」と定められています。
もっとも指針であることから罰則規定はありませんが、多くの事務所が一応これに従って報酬規程を定めているようです。
「一応」という曖昧な文言を敢えて使った理由についてですが、事務所によってはその他の費目で費用を上乗せしている場合があるからです。
例えば「顧客管理手数料」といった名目で追加費用を受領する契約になっていたり、上記㋐の報酬金額を曖昧に示して「債権調査によって判明した債務額によって変動する」という場合もあります。
「債務額による変動」とは、債務額が〇万円までならいくら、××万円までならいくらというように債務額によって報酬の額が変動する料金体系です。
この報酬の決め方の最大の問題は「債務整理を依頼する時点」でいくら報酬に係るかが判然としないこと、また債務額の増大と和解に要する労力は必ずしも比例しないことがあげられます。
弊所では債権額によらず定額の報酬規程を定めていますので、依頼する時点で報酬額がいくらかはわかるようになっています。また、費用については契約時にしっかりと説明しております。
⑵ 自己破産・個人再生の報酬について
司法書士会・弁護士会で上記のような指針はありませんが、弁護士会の旧報酬基準(現在は廃止)によれば自己破産は20万円~、個人再生は30万円~(いずれも非事業者に限る)となっています。
現在多くの事務所では自己破産は20万円~50万円、個人再生は30万円~50万円の範囲内で行っているようです。
弊所では他事務所の報酬等も参照しつつ労力に対して妥当な費用設定をしております。
⑶ 任意整理・個人再生の送金代行の是非について
任意整理・個人再生においては業務完了後に返済を要します。その返済の代行を代理人事務所が引き受ける場合があります。
この場合、最も注意すべき点としては「自分が代理人に振り込んでいるお金の内訳を理解できているか?」です。
振込金は多くの場合、㋐債権者に振り込む弁済金、㋑代理人の代行報酬、㋒代理人がプールするプール金(返済が難しい月が出た場合の予備費、最終弁済時に債権者に弁済または余ったら本人に返戻するものと思われる)で構成されていると思いますが、どこの債権者にいくら振り込んでいるかといった詳細を認知していないケースもあるようです。
返済代行自体は便利なサービスだと思いますが、どこにいくら返していていつ終わるかについては正しく理解しておくようにした方がよろしいと思われます。
また、弁護士・司法書士はこれらのことについて、依頼者がしっかりと理解できるように努めるべきです。
4.自己破産すべきであるにも関わらず任意整理を勧めることについて
⑴ 自己破産・個人再生のことを説明せずに任意整理を勧めることは問題あり
無理な任意整理を勧めてくる事務所が実際にはあるようです。一方で無理な任意整理に見えても個別具体的な事情があって任意整理で粘るケースもあります。
少なくとも客観的に見て弁済は不可能な場合(例:月収と同程度の月弁済額)については専門家として自己破産や個人再生を勧めるべきですし、弁済不能にもかかわらず和解を締結することは債権者にも迷惑のかかる行為ですので慎むべきですが、通常自己破産してもいいような事案だけれども事情があるから任意整理を選ばざるをえないという事情がある方もおられます。
こういった場合、必ずしも任意整理で受任することが不適切と言い切れない場面もあります。ここで重要になってくるのは以下の点です。
㋐ 任意整理だと履行が厳しいことを説明する(見通しを含め可能な限り説明)
㋑ 自己破産・個人再生という制度があることを説明する
㋒ 任意整理が履行不能になった場合、再度自己破産等を依頼する必要がある
以上の点を踏まえて任意整理をする場合には、家計資料を作成、検討し、履行が可能であれば業務を継続する場合があります。実際には微妙な事案であっても無事完済される方はこれまで多く居られました。
ただ、少なくともリスクの説明もなく任意整理に安易に誘導することは問題があると思われます。
⑵ なぜ任意整理を勧めるのか?
自己破産や個人再生の場合は、申立人が居住する住所地を管轄する地方裁判所に申立てをします。また、各裁判所ごとに独自の運用がなされています。
また、弁護士の場合は申立て代理人として裁判所に出頭を要する可能性もあります。従って、地場の弁護士・司法書士にどうしても優位性があるといえます。
そのため多少無理があっても任意整理を勧めている可能性があります。
また、シビアな話ですが任意整理と比べて自己破産・個人再生は完了まで時間がかかることから、早期に報酬金を受領し事件を解決したいという狙いもあるのかもしれません。
弊所では、少なくとも任意整理において履行が不能なのが明らかな場合には受任及び和解締結しません。
5.まとめ 債務整理依頼時に気を付けたほうが良い点
以上のことから、債務整理を相談・依頼する際に気を付けるべき点をまとめると…
⑴ 面談が可能な事務所を選ぶ
やはりお互いのことを理解し、じっくりお話をするためには対面が必要であると考えます。
⑵ 報酬規程が明確であること
報酬規程についてはわかりやすいこと、理解できることが大切です。曖昧な説明や理解である場合は何度でも質問しましょう。
⑶ 複数事務所に相談に行くこと
弁護士・司法書士も見解がわかれる可能性があります。また費用や進め方も各事務所で異なります。そのため、1つの事務所だけで債務整理するかどうかを決めるのは必ずしも得策とは言えません。
1つ目の事務所で意向も相性もあう先生が見つかれば、もちろん依頼すべきでしょうが、もしそこで疑義等が生じた場合は2~3の事務所を回ってみても良いかと思います。債務整理の場合、初回の面談は無料であることが多いです。
弊所では、「他の事務所を回ってから決める」、「他の事務所に行ってきたけど話を聞いてみたい」といったご相談も積極的にお受けしております。
⑷ 早めに相談すること
これは非常に大切です。なぜなら、切迫した事態に陥ってから相談する場合は、上記⑴~⑶についてを検討する余裕がなくなってしまうためです。また、滞納して相当経過してからのご相談の場合訴訟提起を受けるなど不利益も多くあります。
ご相談だけであれば信用情報にも影響しませんし、秘密は厳守されます。
債務整理は確かにやむを得ない事情によりお困りの方のための業務ではありますが、一方で不適切な誘因、誇大広告と取れなくもない紛らわしい広告によって誤解したままに債務整理される方もおられます。
弊所としてはそのような誤解のないような運営を今後も行っていけるようにしたいと考えております。
債務でお悩みの方はぜひご相談ください。